Tess「殺人事件が起きたとき、考えることは2つです。
誰がいつどんな方法で殺害したのか、そして何がそうさせたのか」
テス・プレーがおもむろに立ち上がって話し始める。
Tess「今回の事件における違和感は2つ。ベア・アーランは無抵抗な状態で殺されていました。
しかも部屋の中で、です。それから死体に残った殺害の痕跡。異なる殺し方であり、時間も違っていました。いつ誰がどんな方法で、それを考えるための障壁が多すぎました。でも、ある仮説を持ち出すと、おさまりがよくなるんです。……犯人は複数いる。具体的には3人。まず1人目が被害者を眠らせ、2人目が首を締める、3人目が胸を刺した。そう考えれば、犯人が無抵抗であったこと、痕跡が残された時間がずれていることが説明できます。ただ、恐らくこの3人は協力関係にはないのでしょう。それぞれが自分の仕事を実行した、そんな風に見えます。
違いますか? ジョーカー・馬場さん、スー・クルーさん、マッグ・エニーさん」
穏やかな口調、しかし、テス・プレーの目は誤魔化しを許さないと告げている。
Sue「首を絞めたのは私です」
最初に口を開いたのはスー・クルーだった。
Sue「私はあなたのことを知っていたんです、テス・プレーさん。2年前のベア学園の事件に関わっていた探偵、そうですよね?私はその学園の教師をしていました。自分のクラスの子が亡くなりました。おかしいと思って事件のことを探ろうとしたらベア・アーランに……。私は職を失いました。教師の仕事は大変だけれど、とても楽しくて、毎日が充実していて、このままずっと続けていこうと思っていたのに。悔しい、許せない、そんな思いをもっていたところに、殺害手順書が送られてきました。でも、その手順書のせいにするつもりはありません。実際に手をかけたのは私自身ですから。罪を償います」
Joker「その手順書を送ったのは僕だよ。鍵のメモも手順書も僕の筆跡であることくらいは、あとで調べてもらえば分かっちゃうんだろうね。僕は、その事件で亡くなった生徒の――」
Mag「お姉さん、ですよね?」
ジョーカー・馬場が次の言葉を紡ぐ前に、マッグ・エニーが先を告げる。
Mag「あなたのことをお見かけしたことがあるんです、サーカス団の倉庫でその……」
Joker「あぁ、着替えを見られちゃおしまいだね。そう僕は本当は女性なんだ。亡くなった生徒の姉であることを隠してベア・アーランに近づくために、性別を偽って過ごしていたんだ。ベア・アーランのことを調べつくして、ベア・アーランに恨みをもっている人物を見つけて、今回の殺害の計画を立てた。僕自身が動いたのは1つだけ。タバコに薬を混ぜてベア・アーランを眠らせた。昏睡に近い状態にさせていたから、女性の力でも絞殺することが可能になった。それが上手く行かなかった場合も想定して、刺殺パターンも用意してたんだ。僕が容疑者から外れやすくなることにも役立つしね。両方ダメだった場合は、僕自身の手で殺すつもりだった。僕から言えることはこのくらい」
ジョーカー・馬場は観念したような、どこか吹っ切れた様子で自分の計画について語った。
その語りを聞きながら、マッグ・エニーは目を伏せ、息を吐く。テス・プレーはそれを見留めて声をかける。
Tess「マッグ・エニーさん、無理に話す必要はありません。探偵の仕事は、真実を見つけることであり、事件に関わった人を追い詰めることではありませんから」
Mag「いえ、話します」
マッグ・エニーは顔をあげる。
Mag「私がベア・アーランさんを刺しました。ナイフをホテル内に持ち込んだのも私です。手順書に沿っただけ、私が殺したのではないかもしれない、そう言ってしまえば簡単かもしれません。でも、殺意はありました。それは確かです。私の意思でナイフを手にして、部屋に行きました。どんな罪も受け入れようと思っています」
はっきりとした口調でマッグ・エニーはそう告げた。先程までの緊張した様子はもう消えていた。
程なくして到着した警察に、スー・クルー、ジョーカー・馬場、マッグ・エニーの3人が
連行されて行った。
――ここはE's Hotel。Enigburgh郊外の小さなホテル。お昼が近づいてまいりました。殺人事件は幕を閉じました。
ある事件の お話は これにて終了です
みなさま またいつか お会いしましょう
Miss Murder