僕を選んでくれたの?ありがとう。
僕はジョーカー・馬場。サーカス団員。
このゲームでは、君が僕に成り代わってくれるんだね?
今から僕の秘密を伝えるよ。決してあいつを許さないで。
2年前に起こった一家心中事件。それが全ての始まり。亡くなったのは、父親と娘。母親はそれより前に病死してた。その家にいたのは2人だけだけど、その家族にはもう一人、離れて暮らす姉がいたんだ。それが僕。あー、僕って言ってる理由についてはこの後しゃべるけどね。父と妹の死には絶対にあいつ、ベア・アーランが絡んでる。そうじゃなきゃ、父の会社が急につぶれたり、妹への嫌がらせが頻繁に起きたりしない。学園の先生も誰一人、妹を守ってくれなかった。担任教師は事件の後、逃げるように学園を辞めた。許さない。
ワタシはこの事件の後、どうにかベア・アーランに近づく方法を探っていたの。そんなときに見つけたのが、このサーカス団。ベア・アーランが何度か融資を行っているらしく、学園でサーカスのイベントをするかもしれないって。手先の器用さと体幹には自信があったからワタシはそのサーカス団に入ることにしたの。ベア・アーランと接触できる機会があるなら確実に接触したい。そのために一家心中事件とのつながり、姉であることを隠したいと思った。だから、僕は男性と偽ってサーカス団に入った。入団してから数か月、アーラン財団の融資を受けて全国ツアーを行うことになった。でも、その融資はうちに不利になるような条件で契約されていたみたいだ。来月から多額の借金を抱えることになるかもしれないって団長が呟いていた。ベア・アーラン、あいつはどこまで人を弄ぶつもりだ。ベア・アーランの不当な融資に加担した銀行員も許さない。どうにかして妹の無念を晴らしたい、ベア・アーランに一矢報いたい。そんな思いで、僕はあいつのことを調べまくった。ついでに逃げた教師のその後も。僕は逃げた担任教師とサーカス団を嵌めた銀行員にベア・アーランを殺させる計画を立てた。その2人には殺害手順書を送った。差出人の名前と住所はでたらめを書いたから、2人は計画者が誰であるか分かっていないはずだ。X-Dayはベア・アーランがこのホテルにやってくる今日。
上手く行くかな。不安もある。失敗したらそのときは、僕が直接ベア・アーランを殺して、全ての罪を被ろうと思う。覚悟はあるんだ。
マップ
1階
2階
所持品
所持品
ペン
ホテル備え付けのメモ
小瓶(薬草を入れていた)
香水
ハンカチ
タイムテーブル
14:59
チェックイン時間の1分前。僕は今日ここで全てを見届けなければならない。だから宿泊客の誰よりも早くここに着いておこうと思った。このホテルに来るのは3回目。下見はバッチリ。今日はオーナーがいないであろうことも調査済み。
15:00
やはりオーナーはいない。チェックイン手続きをしてくれているこのフロント係は元教師。妹の担任教師だった。逃げたとばかり思っていたが、ベア・アーランの圧力によって教師を辞めさせられたという方が正しいらしい。事件後の離婚で、ファミリーネームが変わっていたから見つけるのに苦労した。こんな郊外のホテルで働いていたとは。この人に送った殺害手順書では、21:30頃にベア・アーランを絞め殺すよう指示してある。
15:10
2階へ。客の気配もスタッフの気配もない。どうやら今日は清掃員も休みのようだ。おおかたサボりだろうが。
15:15
部屋で薬草の準備を始める。この薬草は熱が加わるとアルカロイド系化合物の粒子を出す。これをベア・アーランのパイプタバコに入れるつもりだ。ベア・アーランはこのホテルに泊まったとき、だいたい21時前まで1階のバーでお酒を嗜み、その後、2階の窓際でパイプタバコをふかしている。その窓際からライトアップされて吹き上がる噴水を眺めるのが好きなようだ。噴水が噴き上がるのは1時間に1回、ライトアップが行われるのは21時と23時らしい。
16:20
そろそろ他の宿泊客もやってくる頃だろう。カムフラージュのために持ってきた文庫本を携えて1階のラウンジに向かう。本のタイトルは『marionette』、我ながらぴったりだと思う。
16:25
ラウンジで本を広げながらフロントや駐車場を観察する。
16:30
女性がやってきた。銀行員の女だ。融資の件でベア・アーランに嵌められ、うちのサーカス団と銀行の間で板挟み。お金にも困っているらしい。ベア・アーランを恨んでいる。その銀行員に送った殺害手順書にはベア・アーランの部屋の鍵を受け取ってから1時間後にベア・アーランを刺殺するよう記してある。ベア・アーランの部屋の鍵は僕が手に入れて、顔を合わせないような方法で渡すことになっている。
16:35
男性が女性の後ろに並ぶ。どこかで見たような顔だ。
16:40
銀行員の女が落としたハンカチを男性が拾って渡した。男性が女性に何か言うと女性は驚いたような表情を見せた。
16:50
男性がチェックインを終えて2階へ上がっていった。
18:00
あいつが来た。これで役者は揃った。第一関門は突破と言えるだろう。
18:35
ちょうどフロント係がフロントを離れたので2階へ戻ることにした。階段を上がりきったところで、銀行員にハンカチを渡していたあの男性が、ベア・アーランの部屋がある方の廊下へ曲がっていくのを見た。廊下の先には客室以外に何もないはず。何をしに行くのだろうか。
19:05
早めに夕食をとっておくことにした。レストランに来たが、まだ他には誰もいないようだ。
19:10
銀行員にハンカチを渡していたあの男性が来た。少し話をしてみるか。ごく自然な挨拶として会釈をしてみた。男性がこちらに気付いて近づいてくる。
「本がお好きなんですか?」
いきなりの質問。ラウンジで本を読んでいるふりをしていたところを見たのかもしれない。
「えぇ、まぁ」
「そうですか、少し意外な感じがしたもので。身体を動かす方が得意なんじゃありませんか?」
なんだこの人は
「えーと?」
「そうですね、例えば、サーカスとか?」
こちらから情報を与えたつもりはないのに突然言い当てられて驚いてしまう。先程の銀行員の表情の原因もこれではないかと思い返す。
「すごいですね。そういうあなたは?」
「探偵です」
探偵。なるほど、やっかいだ。いやでも僕の計画通りに事が進めば自分が疑われることはないだろう。失敗したときは甘んじて受け入れる覚悟はあるけれど。
「探偵さんでしたか。それなら僕の職業が言い当てられたのも納得だ」
「職業病みたいなものです、気を悪くされないでくださいね」
「いえ大丈夫ですよ。ではまた」
職業病ついでに色々突っ込まれると面倒なので早めに会話を切り上げておく。
20:05
腹も膨れたので2階へ戻ることにする。偶然なのか合わせてきたのか分からないが先程の探偵も僕に続いてレストランを出る。少し早足で階段を上がる。あまり会話をしたくはない。部屋の鍵を開けようとしていると、探偵が僕の方へ歩いてくる。
「良い滞在を」
そう言って探偵は僕の後ろを通り過ぎる。
「そちらこそ」
ドアを開けながら適当に返事をする。どうやら探偵は僕の隣の部屋のようだ。となると、対岸の奥の部屋がベア・アーランの"いつもの部屋"なので、対岸の手前の部屋が銀行員だ。
20:45
そろそろベア・アーランが1階のバーを離れる時間だ。偶然を装ってぶつかって、パイプタバコを落とさせる必要がある。
20:50
1階へ降りたところでベア・アーランが席を立つのが見えた。端末を見ているふりをしながらベア・アーランに近づく。ぶつかった拍子にベア・アーランが手に持っているパイプタバコを弾く。
「あぁ!すみません」
僕は慌ててしゃがみ込み、パイプタバコを拾い上げる。と同時に薬草を混入させた。
「お怪我はありませんか?」
そう声をかけながらパイプタバコを手渡す。
「問題ない。こちらも失礼した」
ベア・アーランはそう言って軽く手をあげる。育ちというか品格というかそういうものは悪くない人物だったと思い出す。
21:00
バーでジントニックを一杯飲み、窓の外に視線を向けていると噴水に光が灯るのが見えた。僕は自然にバーを立ち去り、2階へ向かう。
21:05
2階の窓際ではベア・アーランが窓枠に手をつき壁に寄りかかっていた。
「大丈夫ですか?」
「あぁ……」
「お酒を飲みすぎたんじゃありませんか?」
「……ん」
返答が曖昧。薬はしっかり効いているようだ。
「お部屋まで送りましょう」
そう言って肩を貸して歩き出す。
21:10
鍵を代わりに開けると言って部屋の鍵を出させる。僕がベア・アーランの部屋の鍵を開け、そのまま中へ一緒に入る。ベッドの側まで連れていくと倒れ込むようにして横になる。目は閉じられ、意識はほとんどないように見える。パイプタバコの薬草の証拠をなくすために、吸殻とともにトイレに流した。ホテルの備え付けのメモを拝借し、アーランの部屋の鍵と書く。裏移りが気になるので、もう一枚ちぎっておく。それから鍵を持って部屋の外に出た。
21:15
外から鍵を閉めた。鍵の指紋を拭き取る。アーランの部屋の鍵であることを示すメモと共に鍵を巾着袋に入れる。ベア・アーランの隣が銀行員の部屋だ。その部屋のドアノブに巾着袋をかけておく。これであとは元教師のフロント係と銀行員が殺害を実行してくれるのを待つだけだ。
21:30
お風呂に入った。
そろそろ一人目が殺害を実行しているころだ。
22:30
そろそろ二人目が殺害を実行しているころだ。
23:30~0:25
部屋でテレビを見ていた。
0:30
チャリン! と金属製の何かが地面に落ちる音を聞いた。
0:45
就寝
8:15
フロント係の女性が起こしに来た。事件が発生したからラウンジに集まるようにとのことだ。殺害は無事に遂行されたようだ。
8:30
ラウンジにベア・アーラン以外が集められた。下手なことを言わなければ僕が疑われることはないだろう。